架空の場所「武蔵野」 / 「武蔵野婦人」 溝口健二

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戦争中から戦後にかけての世相と対比を示す武蔵野の田園風景。
その中に侵入してくる退廃した恋愛模様が、貞節や道徳といった古き良きものを象徴する田中絹代の「武蔵野夫人」を中心に巻き起こる。
悲劇のヒロインは、その退廃のつけをわが身に引き受けていく・・・。
ここに描かれる「武蔵野」が、実在の地名に名前を借りながらも、ひとつの象徴的な場所であり、そして架空の場所だったのではないかということ。
ヒロインの手紙には、貞節を守り通した不貞の恋人に向けて「あなたの考えている武蔵野はない」というようなことが書かれている。
それは悲劇のままの形をもって最初から消え去ることがわかっていたかのような場所である。
1952年の作品。
原作の大岡昇平の小説は1950年発表でベストセラー。それを受けて作られたタイミングである。
田中絹代はやや老いてしまっている映画ではあり魅力にかける点が残念。
森雅之や轟夕起子の怪演がこれを救っているといえばそうなのだが、それが溝口作品としてどうなのかというと、これはこれでまた微妙である。そしてこれらの不満は最後までぬぐいきれない。
ちなみに映画のスクリーンで始めて知ったのは福田恒存がこの映画の潤色をしていること。福田恒存は舞台版の「武蔵野夫人」を脚色しているので、そちらに映画は想を得たということか。(福田恒存版の戯曲は読んでません・・・)
東京国立近代美術館フィルムセンター「生誕百年 映画女優 田中絹代」にて。

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