『はだしのゲン』に対する批判への反論(1)「原爆が戦争を終わらせた」というセリフについて

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『はだしのゲン』が島根県松江市の学校から閉架処置となったとのニュースが話題になっています。
FireShot Screen Capture #109 - 朝日新聞デジタル:「はだしのゲン」閲覧を制限 松江市教委「描写過激」 - 社会 - www_asahi_com_national_update_0816_OSK201308160095_html

この『はだしのゲン』に対する攻撃というのは、実はこれに始まった話ではありません。

書かれている内容が例によって「事実ではなく」もっぱら「反日的」な内容であるという主張は、以前より右翼的な人たちから根強くありました。したがって、過激な描写というよりは、その思想的な内容をやり玉にあげる人がいて、その中に在特会一派の方々がいました。
このうちのひとりが、松江市に対して陳情したり関係各所に圧力をかけていたもので、松江市議会は却下したものの、これに賛同する右派議員1名の働きかけにより松江市教育委員会が判断し、こうなった次第です。

こういうことが、非常に偏った考えの人によって行われて、さらに議会が却下したものにも関わらず、教育委員会が独自の判断を下したことに対してたいへん納得がいかないものがあります。

さて、それとは別に、この偏った考え方の人々は、この『はだしのゲン』に対して事実と違うと主張しているようです。
これらの主張の間違いについて今回は2回にわたってまとめてみることにします。


Q『はだしのゲン』での「原爆が戦争を終わらせた」という登場人物の発言はウソではないか。しかも原爆肯定ではないのか。

そもそもマンガの中の登場人物の発言にめくじらを立てるというのもどうかと思っています。
そうすると、登場人物の主張がそのままその作品の主張になるわけで、そうすると例えばアンパンマンでバイキンマンが「みんなやっつけてやる~!」という発言が、そのまま作者の主張ということになりますから(笑)
それでなくとも、この作品の最初から最後まで原爆肯定だなどという読み方はひとつたりともできないわけで、そういう意味で、原爆肯定だなどというのは、全くのいいがかりにすぎない話だということもわかります。
なので、ここでは、「原爆が戦争を終結させた」という主人公の認識がどの程度まとを得ているかということに絞ってまとめていきます。

 

答え:そのような認識は終戦工作を行っていた当時の政権の中にもあった見方であり、あながち間違いではない。

以下は昭和天皇の発言です。

「この種の武器が使用させるる以上、戦争継続は愈々不可能になれるにより、有利なる条件を得んがため戦争終結の時期を逸するは不可なり。条件を相談するも纏まらざるに非るか。なるべくすみやかに戦争終結をみるよすに努力せよ」(「「終戦史録」外務省)

さらに、以下は強硬派の軍部をむこうにまわし、終戦工作に奔走していた主要な人物二人の発言です。

「言葉は不適当と思うが、原子爆弾の投下とソ連の参戦は、ある意味では天佑であると思う。国内情勢によって戦争をやめるということを、出さなくてすむからである」(米内海相 8月12日の発言『検証 戦争責任Ⅱ 読売新聞戦争責任検証委員会』)
「、原子爆弾だけに責任をおっかぶせればいいのだ。これはうまい口実だった。」(迫水久常 当時の書記官長『大日本帝国最後の四か月』)

【参考】なぜこのような原爆が終戦の決定打というような認識になったのか?

終戦工作自体は、絶対国防圏といわれていたサイパンの陥落の1944年7月くらいからすでにこの時代の「重臣グループ」によって行われていました。
ですが、これがそんなにうまく行かなかった。
陸軍はフィリピン戦も沖縄戦もまだの段階で、まだまだ徹底抗戦を主張していたし、フィリピンと沖縄がそれぞれ数十万人の死者を出して敗北したあとも、本土決戦を主張してました。
講和(ようするに降伏です)を主張するなど当時のキチガイじみた世論の中では自殺行為ですし、実際に特高警察に捕まった人もいます。
また昭和天皇も、少しでも大きな損害を与えて、それを契機に和平を図る(一撃講和論)にしばらくは固執していました。
またピントはずれなソ連を仲介とした和平工作があったこと。そして何よりも軍部の強硬派に皆が恐れをなしていたことなども、この原因となります。
これらの事情をすべてなし崩しにして、原爆投下が終戦を早めた(広島原爆投下から3日で天皇の「聖断」となったこと)というのは、残念ながらアメリカの原爆肯定論に近くなりますが、事実と言わざるを得ません。
なお、終戦に至るプロセスと決断の遅れについては以下にまとめてみました。
◇戦争の終結はなぜ遅れたか -終戦に至る原爆投下の位置づけ-
http://masterlow.blog74.fc2.com/blog-entry-413.html
『はだしのゲン』に対する批判への反論(2)日本軍の残虐行為について

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